サービス産業の支援に経済産業省が動き出した!
2016年 春号 2016.05.20
国の重要施策の一つであるサービス産業の生産性向上。経済産業省では、バックアップへの様々な試みを行っている。生産性向上を実現する方法と施策について、インタビューした。(編集部)
※COMPASS本誌掲載インタビューのロングバージョン
「サービス品質」を見える化し生産性向上を支援
──「サービス産業」をどのように定義していますか。
山田 業種は多種多様ですが、狭義に捉えるとGDPの20%程度です。ただし広義では、製造業、建設業、農林水産業、鉱業を除くすべてがサービス産業となり、GDPの約75%を占めるまでになります。
しかし残念ながら、ここに属する産業の多くは、労働生産性が全産業平均を下回っています。2013年度のGDP480兆円を2020年度に600兆円に拡大するという国家の目標を達成するには、サービス産業の生産性を大幅に向上させることが不可欠なのです。
──サービス産業の支援に関するこれまでの取り組みは?
山田 2014年度までは現状と課題の分析に加え、「おもてなし経営企業選」という表彰制度を設けて3年間で100社を選出しました。
2015年度は、政府が策定した「サービス産業チャレンジプログラム」を受けて、各省庁だけでなく地域レベルでもサービス産業を支援する動きが見られるようになりました。地方自治体の中には専門部署を設置するところも出てきています。
また、内閣総理大臣賞や各大臣賞などを用意した表彰制度「日本サービス大賞」を創設し、その第1回表彰を行う予定です。
そして2016年度は、政府が掲げた「サービス・フロンティア4.0」のもと、サービス産業の活性化・生産性向上支援のためのより具体的な施策を展開していきます。
──その概要を教えてください。
山田 施策としては①サービス産業向けIoT支援、②新たなサービス・フロンティ市場の創出、③サービス産業の国際展開の3本柱で具体的な事業を推し進めると同時に、これら全体を支える基盤整備に力を入れていきます。
①では、サービス産業のIoT活用事例を多数盛り込んだ生産性向上ガイドラインの提供に合わせて、革新的なサービスの創出やサービス提供プロセスの改善なども支援対象とする「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」事業を展開しています。また、地域企業の経営判断や経営支援の参考にしてもらう狙いで、財務・非財務の評価指標を示す「ローカルベンチマーク」というものを設定しました。
②では、観光、スポーツ、健康、シェアリング、クリエイティブ、エネルギー、教育などの分野で、IoTなどを駆使し世界に先駆けた新たなサービス市場を生み出そうと、各々について現状分析や課題の洗い出し、具体策の検討などを行っています。この取り組みによって計50兆円の新市場を創造する目標を掲げています。
③についてもさまざまな施策を考えていますが、進出する対象国によって規制や商習慣、雇用条件などの違いがあり、容易には実現できないのが実状です。そこで、サービス産業界の意見収集や連携を進めるべく、約50社が参加する「グローバルサービス座談会」を定期的に開催しています。この席で議論された内容を取りまとめて具体的な支援策へとつなげていきます。
──「基盤整備」に関する具体的な取り組みは?
山田 主要なものとして3つの施策を進めています。
まず、「おもてなし規格認証制度」の創設です。これはサービス品質を見える化し、質の高いサービスを提供する企業が高い付加価値を得られるようにすることが狙いです。具体的には、3段階のレベル――「基本的な期待に応えるサービス」「独自の創意工夫を凝らしたサービス」「期待を大きく超えるロールモデルとなるおもてなし」を設定し、それぞれの必要項目に沿った審査をクリアした企業を「おもてなし規格認定企業」として登録します。
2つめは、地域における産官学が連携した「サービス地域拠点」設置の推進です。各地の自治体が主導で事業を進められるよう交付金制度も設けました。
もう1つは、諸外国ではすでに進んでいるサービス産業の経営人材の育成です。教育機関でサービス経営に関する教育の実施を促進するため2015年度から「産学連携サービス経営人材育成事業」をスタートさせており、これまでに大学など17事業者に支援を行っています。また、この事業においては、文部科学省や厚生労働省など各省庁間で連携した施策も展開しています。
──「おもてなし規格」が非常に興味深い施策です。
山田 サービス業は品質を測るものさしがなかっただけに、「がんばってもきちんと評価されない」という傾向が強いように思います。
この規格では、顧客に対するサービスの品質だけでなく、従業員の意欲・能力を引き出す仕組みや地域社会と共生するための仕組みを整えているかどうか、そうした取り組みを継続・発展させる努力をしているかなど、表向きにはなかなか分からない企業努力にも目を向けて総合的に評価します。
第四回検討会でのエントリーシートイメージを参考までにご提示します。
認定を受けた企業は、顧客獲得はもとよりブランド力向上、従業員の確保といった面でも効果を得られると見ています。
──「おもてなし規格」の実施スケジュールは?
山田 今夏までに、民間規格としてパイロット版の運用を開始する予定です。スタート時点で全国規模か一部地域になるかは調整を進めている段階ですが、自治体や地域の支援機関などと連携・協力して推進していくことが重要だと考えています。
また、「おもてなし規格」を日本発の国際規格としてISO化することにも取り組んでいます。
──サービス産業界の大半を占めている中小企業にメッセージをお願いします。
山田 サービス産業の活性化・生産性向上は国から発信した動きですが、具体的な施策は現場のニーズに応えるものにしなければなりません。そのために、私自身も各地域、現場にできるだけ足を運び、真のニーズを積極的にお聞きし、施策に生かしていきたいと考えています。
また、地域の企業を支援する立場の自治体にお願いしたいことがあります。サービス産業支援の窓口となる専任部署をぜひ作っていただきたい。率先して動いている自治体もありますが、これが全国各地に広がり、私どもが打ち出す施策と現場の企業の方々をうまくつないでくれることを期待しています。