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国内生産額はピーク時の3分の1 顧客と向き合い打った策とは?

2018年 春号 2018.03.30


見える化が現場の意識を変えた
 ― 大東亜窯業(岐阜県土岐市) 窯業(和食器)―

日本が誇る陶磁器の産地・岐阜県土岐市に本社・工場を構える大東亜窯業は、原料素材の準備から、加工、窯入れまで一貫体制で和食器を製造する。食卓を色どる陶磁器は、ギフト需要や好調な輸出もあいまって、安定した市場を形成。土岐地域は活況を呈していた。

軽くて強い機能性磁器「おかるのキモチ」は介護施設でも利用される
※工場内は、生産を高める自動化機械も導入されている。型ごとに成形・素焼きを行うが、絵付けの段階でシリーズごとにわかれていく

ところが、生活スタイルの変化とアジア勢の台頭が様相を変える。国内生産額はピーク時の3分の1に、輸出入を差し引いた国内需要は2分の1まで下落。
大量生産用の設備を整え、企画力でヒットを出し成長してきた同社も、市場の縮小と連動するように売上が下降を始めた。

(左)代表取締役 楓 陽光氏  (右)常務取締役 小貝 馨氏

会社概要 大東亜窯業株式会社
住所 岐阜県土岐市肥田町肥田2886-3
設立 1951年
従業員数 約180名
事業内容 美濃焼メーカーとして和食器を企画・製造
URL http://www.daitoua.co.jp/

 

納期遅れをなくす! 生産体制を変える決意

市場の異変が起きたとき、二代目経営者の楓陽光社長は、就任してまだ2年だった。
「過去の成功体験で『ヒットがでれば挽回できる』とついつい期待しましたが、時代は変わっていました。このままでは先代が蓄積してきたお金も徳も食いつぶしてしまう…。眠れない日もありました」
ピーク時に28億円あった売上が10億を切った2007年、同社は、モノづくりの体制を変える決意をする。ヒット商品頼みの大量生産方式から少ロット対応への転換だった。
「お客様へのアンケートなどでニーズを探った結果、嗜好が変化し大量生産はそぐわないこと、納期の遅れは信頼を失うことが浮き彫りになったのです」
常務取締役の小貝馨氏はこう振り返る。大量生産体制は作業効率は良いが、細かな注文への対応が難しい。そこで、2000個単位だったロットを200個単位に変え、リードタイムを短くする方法として「かんばん方式」を導入した。

和食器製造は大きく、
  ①土練→②坏土→③成形→
  ④素焼→⑤素焼き仕掛→
  ⑥加工→⑦焼成 
の工程を踏む。
主に、①と②の間、③と⑤の間に「かんばん」を用いた。
例えば、ある形状の茶碗について、⑤の工程で台車2台分の成形品から素焼き仕掛をつくった場合、その台車のかんばんが③の工程に渡される。戻ってきたかんばんが一定の数に達すると成形に取り掛かる仕組みだ。

 

現状の把握・共有から 意識が変わり始める

とはいえ、同じ設備でやり方を変えるのは一朝一夕にはいかない。同社は社をあげて経営改革に取り組んだ。
金融機関からの案内で、経済産業省が実施していたIT経営応援隊の経営者研修会に足を運んだ小貝常務は、専門家・水口和美氏に出会う。同じ研修会を社長・副社長にも薦め、無料の経営診断を受けた。
水口氏は当時の様子を、「大量生産による在庫が相当ありましたので、まず幹部研修を実施し、目標管理におけるKGI(定量的な指標)、KPI(目標達成プロセスの評価指標)を明確にしていただきました」と話す。
当時立ち上げた幹部社員による戦略会議と全体会議は今も続いているという。
現状の把握にはITも活用。まずオフコンから各種データを取り出し、顧客や販売データを分析して見える化を行った(現在は、オフコンから直接データを取れるアプリケーションを使用)。
次に、「かんばん方式」に対応できる生産管理システムを構築。生産計画を明らかにし、日々の実績を記録している。
さらに、取り込んだ基幹データや顧客情報をデータベース化し、BIツールによる分析で見込み生産を行う自社商品の需要予測に活用している。


「現状の見える化・共有は大きな効果がありました。改革当初は営業と現場でよく喧嘩していましたが、皆が生産計画や進捗、販売の現状を知ることで新しい生産方法が定着しました」と楓社長は振り返る。
データ分析から、新製品のライフサイクルが10年であることがわかり、1年間に10%ずつ新商品に入れ替えている。
少ロット対応と納期遵守、そして商品開発の効果から、同社は売上を13億円まで回復させることができた。ストップしていた人材投資も再開し、会社の担い手を育てていくという。
「倒産しない会社づくり、そして日本一の和食器メーカーを目指します。微差が大差になりますから、基本に忠実に、当たり前のことを積み重ねていきます」
楓社長は現在の心境と決意をこのように語った。
V字回復をさらに進めるべくまた日々の積み重ねが続く。

 

サポーター紹介

株式会社ARU 
代表取締役
水口和美氏
(ITコーディネータ)

中部地区を中心に、長年にわたりIT経営支援の豊富な実績を有する専門家。
IT導入はもちろんのこと経営戦略立案や改革推進の支援も手掛ける。
大東亜窯業の支援においては、幹部研修や会議への同席支援を行う一方、同社の商品をネット販売し顧客の反応を見るなどのトライアルも行った。10年にわたり、改革のペースメーカーとして伴走している。
同社の今後について、「機能性食器などニーズの高い分野はまだまだ伸びしろがあります。また食器は女性のセンスが求められるので、女性社員の増加にも期待したい」と分析する。
楓社長は、「難しい言葉で煙にまかず、当社のことをよく理解しサポートしていただいています。データを共有し数字で見る習慣が身についたのも大きい。改革を前に進めるには進捗を見ていただける専門家は欠かせない」と感想を話している。

 

※大東亜窯業は、「攻めのIT経営中小企業百選2017」に選定されました。


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