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70代社長の挑戦――顧客情報の 一元管理で、事業承継も見えてきた

2019年 夏号 2019.07.18


支援機関、専門家とともに(IT導入補助金活用事例)
 広島県広島市・木造建築 河内建設

住宅建築の工法はこの20〜30年で大きく様変わりした。ユニットバスに代表される既成品を組み立てる乾式工法が採用され、工期も短縮傾向だ。

この中にあって、木造建築の良さを大切にし続け地域の信頼を集めるのが、広島県広島市の河内建設である。
「住む人の体調に合わせた家づくりの大切さ、地元内地材を使う良さを丁寧に説明し、日本の風土に合う湿式工法による“呼吸する家”を建てています」

会社概要 有限会社河内建設
住所 広島県広島市佐伯区五日市町上小深川432-1
設立 1989年
従業員数 6名
事業内容 建築(木造戸建て、リフォーム)。
国内の木を使い、湿式で呼吸する家を提案している。
顧客からの紹介で依頼が続く

 

 

代表取締役の先本民治氏は経営姿勢をこのように話す。民間住宅の建設・リフォームのほか、寺社のリフォームを手掛ける。

先本社長は70代であるが、「人の頭で対応できる範囲は限られる。ITを使って業務管理をしよう」と、積極的にパソコンに向かってきた。ただ、データが増え情報を探し出すのに時間を要するようになり、2018年末にはソフトウェアのサポートが終了することから、システムのリプレースが気がかりだった。

加入している五日市商工会の会報に「IT導入補助金」の案内が記載されているのを見つけると、「これだ」と思い、3月に商工会を訪問した。

担当の森岡将志氏は制度の概要を説明し、「具体的な導入に進むには、専門家に相談したほうがよい」との判断から、コネクションのあった広島市産業振興センター・中小企業支援センターの情報担当・姫野三樹氏(ITコーディネータ)を交えての導入支援へと歩を進めた。

 

二つの業務課題をどうシステム化すべきか

先本社長がシステムに求めたのは顧客情報の管理と工事ごとの利益把握だった。
となれば一般的には、工事原価管理のシステムが候補に挙がるが、導入したのは、顧客管理システムだった。その経緯を姫野氏は次のように打ち明ける。
「先本社長は膨大な顧客情報を記録されており、これが会社の核になっています。一方、建設業向けの積算ソフトは情報項目が多すぎ、かえって使いにくい印象でした。そこで、バックアップが容易なクラウド型の顧客管理システムをメインとしました」

「蓄積された顧客情報」とはどのようなものなのか。

「建築業は、その家を解体するまで関与します。10年、20年経って声をかけていただいたときも、施主さんがどのような方であり、家族関係や好み、お怪我やご病気の状況、また電球がいつ切れたかまで、理解して対応するよう、記録してきました」
先本社長は、満足度の高い家づくりに、顧客の情報管理は欠かせないと認識している。

 

地元IT企業との二人三脚 情報を探す時間は1/5に

選定された顧客管理システムはディーエスアールの「CRMiS(クラミス)」であった。同社の田中隆二社長は、「大量のデータを蓄積しお客様に真摯に向き合っていらっしゃることがわかりました。大事なデータを一つも漏らさぬようしっかり移行を進めました」と振り返る。

工事ごとの利益管理は、顧客管理画面に原価・利益管理のExcelファイルを紐づけ、呼び出して利用できるようにした。
ITベンダー選びにあたり姫野氏が重視したのは、地元の広島に本社があり、技術力に定評がある点だ。ネットサポートのみでなく、いざというとき来てもらえる距離感は、業務におけるIT利用では大切にしたいポイントだ。

ディーエスアールでは、導入時に毎週1時間程度の訪問講習を実施し、円滑な活用推進を支えた。
2018年秋、IT導入補助金に無事採択され、システムの導入を開始してから約半年。河内建設では過去30年以上の顧客データの移行が完了し、顧客ごとの問い合せや作業履歴など、データをすべて新システムで一元管理できるようになった。

必要な情報を探し出すための時間は従来比5分の1に。顧客からの電話や訪問時に、過去に聞いた話を踏まえて会話すると驚かれ、信頼感がさらに増しているという。

社長のパソコンに入っていた情報をクラウドで共有可能にしたことで、事業承継の目途がたったのもうれしい成果だ。

「新システムのデータは“秘蔵の宝”です。これを媒体にしながら二代目ならではの成長を目指してほしい」
先本社長は静かな口調ながら手ごたえを感じている表情でこう語った。
顧客に支持される会社がいかに長く事業を続けられるか。人口減の時代を迎え、企業自身の挑戦はもとより、各地域の支援力も問われている。


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